「工学教育に携わって ―社会とのパートナーシップを中心―」
東京工業大学名誉教授(元,工学部長) 水谷 惟恭 名誉教授
−平成17年6月18日−

講演 要旨

(この講演は3月11日に水谷名誉教授が行った最終講義の内容の一部です。)

【概 要】
 1990年代は「失われた10年」とよく言われるが、大学教育に関して言えば、1988年大学審議会から「大学院制度の重点化」が答申され、1990〜91年にかけて大学の大綱化が進められた。特に第二次世界大戦の枠組みを残している現在の大学の教育制度を大きく変えることが始まった。
 その点では「再編と改革の10年」なのであろう。そして1998年に大学審議会から「21世紀の大学像と今後の改革方策」が出された。私は1980年後半から本学の教育に関する委員会に顔を出すようになり、その後工学部の立場で、しかも、実務よりもやや提言や企画の面から工学教育に参加する機会をいただいた。今、この10〜15年間を振り返って、先輩の先生方、同僚、そして若い先生方、また事務の方々と共に歩んできた道を眺めてみて、もう一度、工学教育を皆様と考えてみたいと思います。
 今や、機会は熟している。正面から教え育てる環境を整え、10年先、20年先の思いを馳せる時期であろう。「本学においても、将に時来る」で有ろう。

【内 容】
 平成5年頃から平成14年度までの間で、皆様と一緒に仕事させていただいた以下のような多くのことから、教育(特に技術や工学の教育)と社会とのパートナーシップの必要性を中心に考えたいと思っています。

(1)大学と企業から見た工学教育の教育法と評価(末松委員会)
(2)東工大工学部の学生アンケート、教官アンケート、卒業生アンケート
(3)工学系FD研修会(1泊2日)
(4)工学部競争力調査委員会(強みと弱み、入試、教育、国際性、運営、広報など)
(5)高大連携教育、特別選抜、サマーチャレンジ、サマーレクチャー
(6)8大学工学教育プログラム・基準強化委員会(大学院教育、国際競争力、達成度判定)
(7)GP(特色ある大学教育支援プログラム)「コアリッションによる工学教育の相乗的改革」
(8)博士課程学生フォーラム(東工大版、8大学版)
(9)社会における教育現状は・・・(時間によって割愛)
(10)大学院修士課程教育環境調査(学生生活、改革課題、石井委員長)

【まとめ】
(1)大学教育の基本は学生・教員、支援職員のトライアングル
(2)努力して理解したことの喜びと新しい知識を知った喜びがモチベーション
(3)学生が自ら実践し、身につける意志と感動のトリガーには学生一人一人が主導するプラクティスが必要、そこには他人とのつながりと他人の評価が不可欠
(4)入学時の目標が必ずしも達成されていないことも含めて、多様な価値観に対応した教育環境
(5)多様な教育環境は社会とのパートナーシップによって創出される
(6)教員の教授法(座学講義にとどまらず、実験、演習、ゼミ、PBLなど)は学生の受講モチベーションに大きく影響している。しかも、学生の努力が正当に評価されることが重要
(7)大学初年度から、社会・世界との連携とは具体的行動で参加させて、自らがたっている位置を体験することによるモチベーション
(8)学生の教員とのコミュニケーションは社会の変貌の中でその必要性が増大している。多くの教員とのコミュニケーション環境が必要とおもわれる。
(9)大学院教育はなにを教育しようとしているのか。どのようなアウトカムズをつけるのか。社会と考える時に十分きている。See-Think-Plan-Do, PDCA
(10)細かいことだが、学生の要望に応えている場合にはすみやかに学生に見える形で実行するのがよく、学生も大学の重要な一員で、責任と義務もあることも。
(11)大学における教育の公開は不可欠であり、公開によって社会の信頼を受け、支援と協力を得無ければならない。互いの競争ではなく、自らの切磋琢磨による自己改革と不断のスパイラル向上に尽きるように思われる。
(12)しかし、実行は簡単ではない。矢張り、ゆったりとした遊びの時間はなくてはならないと思う。
(13)学部の成績と大学院での研究活躍の関係
(14)入試の多様性と受入教育の均一との相反

【謝 辞】
 本日の話題は最終講義のときに話した内容、すなわち本学を中心とした私の体験をまとめたものです。実に多くの方々との活動によるもので、ここで厚くお礼申し上げます。
  窯業同窓会の方々にはいろいろお世話になりました。お礼申し上げます。