古い材料に新しい命を−酸化亜鉛の新機能−
東北大学金属材料研究所 川崎 雅司 教授
−平成17年6月18日−

講演 要旨

 酸化亜鉛は、自動車タイヤのゴムの硬化剤や化粧品顔料に大量に消費される化成品である。地殻の元素存在比では23位、人体中の元素存在比は15位。電子材料としては、避雷針や電子機器で焼結体がバリスタとして利用されており、ガス(酸素)センサがスペースシャトルに装備されている。古くには液晶以前の電卓の青緑色の表示は酸化亜鉛蛍光体を用いた電光管であった。
 この材料が、俄然、現代テクノロジーの中心的な興味の材料の一つに躍進した。1996年に我々が発表した、超高効率の紫外励起子レーザ発振の実現である。390nmの紫外線レーザが酸化亜鉛薄膜から発生した。しかし、これは光励起による発光実験であり、電流注入による発光、すなわちLEDやダイオードレーザの実現、に向けた研究競争が爆発的に広がった。以来、応用物理学会では落ち目のII-VI族半導体の分野で、あっと言う間にZnSeなどの発表件数を凌駕するほどの活況を呈し、一昨年からは酸化亜鉛のセッションが独立した。
 この間、電流注入発光素子に向けた技術課題のうち、バンドギャップエンジニアリングは我々のグループにより比較的早期に実現したが、天然にはn型に成ってしまう酸化亜鉛をp型に価電子制御する研究は困難を極めた。しかし、ついに2004年7月に実現し、酸化亜鉛LEDから青い光が発生した。論文発表(2005年12月)の後にはマスコミ報道を含む大きなニュースとなっている。
 本講演では、以上の経緯やサイエンスとして重要なトピックスを紹介し、また三原色蛍光体、透明トランジスタや透明磁石などを含めて酸化亜鉛の新機能を説明する。これらの重要なブレークスルーが我々のグループで集中的に発生した大きな要因であるコンビナトリアルテクノロジーについても紹介する。

参考資料 ナノネットインタビュー
 日経先端技術(PDF)
NHKクローズアップ現代
NHKクローズアップみやぎ